ユネスコ総会で採択された「世界遺産条約」(世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約)に基づき、一地域・一国内の視点ではなく、人類全体のための世界の遺産として保存する必要があるものとして、世界遺産委員会が「世界遺産一覧表」に記載した自然環境や文化財です。

世界遺産の分類

世界遺産は、文化遺産、自然遺産、複合遺産の3種類に分類されます。
※産業遺産は文化遺産に含まれます。

  • 文化遺産 : 歴史上、芸術上、学術上重要な建造物・記念物・遺跡等
  • 自然遺産 : 保全上、鑑賞上、学術上重要な自然景観や生物棲息地等
  • 複合遺産 : 文化遺産と自然遺産の定義の両方を満たすもの

メンフィスと墓地遺跡
(ギザからダハシュールまでのピラミッド地帯)

グランド・キャニオン国立公園

万里の長城


世界遺産の対象

世界遺産条約で定義されている「記念物」「建造物群」「遺跡」等の不動産である必要があります。動産、もしくは動産になり得る不動産は対象外です。

国内法による保護
所在する国の十分な法的保護の下にあって、確実に守られている必要があります。
【国内法(文化財保護法)】の指定が必要です。

顕著な普遍的価値
ユネスコ世界遺産委員会が策定した作業指針で示されている、評価基準を一つ以上満たし、「顕著な普遍的価値」を有する必要があります。

  1. 人間の創造的才能を表す傑作である。
  2. 建築、科学技術、記念碑、都市計画、景観設計の発展に重要な影響を与えた、ある期間にわたる価値感の交流又はある文化圏内での価値観の交流を示すものである。
  3. 現存するか消滅しているかにかかわらず、ある文化的伝統又は文明の存在を伝承する物証として無二の存在(少なくとも希有な存在)である。
  4. 歴史上の重要な段階を物語る建築物、その集合体、科学技術の集合体、あるいは景観を代表する顕著な見本である。
  5. あるひとつの文化(または複数の文化)を特徴づけるような伝統的居住形態若しくは陸上・海上の土地利用形態を代表する顕著な見本である。又は、人類と環境とのふれあいを代表する顕著な見本である(特に不可逆的な変化によりその存続が危ぶまれているもの)。
  6. 顕著な普遍的価値を有する出来事(行事)、生きた伝統、思想、信仰、芸術的作品、あるいは文学的作品と直接または実質的関連がある(この基準は他の基準とあわせて用いられることが望ましい)。

    ※自然遺産の評価基準として他に4基準(7、8、9、10)があります。

真正性・完全性
真正性(オーセンティシティー)に合致すること。つまり資材や文化的特徴が本物でなくてはなりません。復元に関しては、正確な情報に基づくもの であり、かつ、全部が復元でなければ良いこととなっています。また、価値や重要性を示すために必要な要素がすべて含まれていること(完全性)が求められています。


産業遺産について

1994年に開催された世界遺産委員会において、「欧州地域における遺産」「都市関連遺産及び信仰関連遺産」「キリスト教関連資産」 などの世界遺産登録が過剰に進んでいると認識され、「産業遺産」「20世紀の建築」「文化的景観」などに関する事例を考慮するべきと示されました。
このような中、世界文化遺産の審査にあたるICOMOS(国際記念物遺跡会議)は、国際的な産業遺産研究団体であるTICCIH(国際産業遺産保存委員会)と協定を結び、産業遺産などの審査に協力を求めることとなりました。
※産業遺産は文化遺産に含まれます。

産業遺産の定義
TICCIHはニジニータギル憲章(2003)の中で産業遺産とは、「歴史的、技術的、社会的、建築学的、あるいは科学的価値のある産業文化の遺物からなる。これらの遺物は、建物、機械、工房、工場及び製造所、鉱山及び処理精製場、倉庫や貯蔵庫、エネルギーを製造し、伝達し、消費する場所、輸送とそのすべてのインフラ、そして住宅、宗教礼拝、教育など産業に関わる社会活動のために使用される場所から成る。(日本語訳は産業考古学会HPより引用)」としています。

産業遺産の価値
さらに、その価値について以下のように定めています。(日本語訳は産業考古学会HPより引用)

  1. 産業遺産とは、重要な歴史的結果を過去に持ち、現在も持ちつづけている活動の証拠である。産業遺産保護の動機となるものは、独特な遺産の特異性よりも、この証拠の普遍的価値に基づくものである。
  2. 産業遺産は、普通の男女の生活記録の一部として、又重要なアイデンティティーを与えるものとして社会的価値がある。又製造、エンジニアリング、建造の歴史における技術的及び科学的価値があり、建築、デザイン、及びプランニングの質において大きな美的価値があると思われる。
  3. これらの価値は、遺産それ自体、その建築構造物、構成部分、機械及び据え付け、産業景観、記録された文書、又人間の記憶や慣習に刻まれた産業の無形の記録に本来備わっているものである
  4. 特定の産業工程を残すという点では、珍しさ、遺跡の類型や景観は、特に価値を高め、慎重な評価がなされなければならない。初期又はパイオニア的な例は、特に価値がある。

世界遺産になった産業遺産(代表例)
イギリス : アイアンブリッジ峡谷 / ダーウェント渓谷の工場群 / ソルテア など
フランス : アルケスナンの王立製塩所 / ミディ運河 など
ドイツ : ランメルスベルク鉱山 / フェルクリンゲン製鉄所 など
オランダ : キンデルダイク / エルスハウトの風車群 など
イタリア : クレスピ・ダッタ など
日本 : 石見銀山遺跡とその文化的景観

アイアンブリッジ峡谷
世界初の鉄橋

ダーベント渓谷の工場群
工場制機械工業の発祥地。初めて水力紡績機が稼働した工場が残る

ソルテア
産業集落の理想郷

ニュー・ラナーク

石見銀山遺跡とその文化的景観


世界遺産登録の範囲

世界遺産一覧表に登録するには、登録を推薦する資産の区域(境界線)を明確に定める必要があります。複数の資産から構成される場合は、各構成資産ごとに定めます。具体的には、文化財保護法に基づく指定または選定を受けて、適切な保護措置及び管理体制が整っている資産の区域です。

緩衝地帯(バッファゾーン)
資産の世界遺産としての価値を損なわないため、資産の周辺にもうけるもので、その景観や環境を保護する区域です。なお、緩衝地帯の範囲はそれぞれの資産に応じて、専門的調査に基づき決められます。世界遺産登録のためには、緩衝地帯を確保することが条件となりますが、世界遺産登録のための国際的な特別な規定があるわけでなく、具体的にはそれぞれの国における法律や条令を適用して緩衝地帯を確保することになります。

複数の構成資産がある場合には、全ての構成資産に対して緩衝地帯を設定する必要がありますが、複数の構成資産を一体として保護する緩衝地帯を設定する場合があります。